君のためにできること
病院にサイレンが鳴り響き、救急車が到着した。


なつきは、集中治療室に運ばれた。俺は待合室で彼女の自宅に電話していた。


「なつきが倒れました。今、病院です」


そう告げると、なつきの両親は、深く沈黙したまま何も喋らなかった。なつみが亡くなってからというもの、両親は心を閉ざしていた。なつきだけが心の支えになっていた。


俺は、病院の名前と場所を話し、電話を切った。


病院は静まり返っていた。自販機でジュースを買い、のどを潤した。


三十分も、経っただろうか。遠くから、足音が聞こえ、振り向くと、なつきの両親が青ざめた顔で立っていた。


「あの・・・?なつきは無事なんですか?」


俺は「今は集中治療室です」と、言った。


なつきの母親は、目じりの深いしわをよりいっそう際立たせていた。


なつみが、亡くなってから苦労したのかもしれない。俺はそう感じた。父親はうつむき、椅子に力なく座った。


俺は息苦しくて、海の底にいるみたいだった。
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