君のためにできること
俺は、急にめまいがして、床にうずくまった。まことは、見下ろしている。


「一人の女も守れないくせに、何強がってるんだよ。なつみを死なせたのはお前の責任じゃねえか」


「知ったようなこと、言うなよ・・・。お前に何がわかる?お前になつみと俺のことの何がわかるって訊いてんだよ」


俺はよろめきながら、立ち上がり、まことを睨んだ。


「俺は、なつみを愛していた。本気で愛していたんだ」


俺がそう言った瞬間、また殴られた。


「・・・うっ」


声なんて出やしなかった。


黙っていたまことは、俺の髪を鷲掴みにした。


「愛なんて軽々しく言ってんじゃねえよ」


まことは呟いた。


俺はまことの顔を間近でみた。彼の頬には涙が光っていた。


まことが、瞼を閉じる。同時に大粒の涙が俺の顔にかかった。


「いいか?愛って言葉の中には慈しみや憎しみや色んな感情が混じってるんだよ。お前、本当に人を愛したことあるのか?」


「・・・ある」


「だったら、何でお前はなつきと付き合ってるんだよ!お前のなつみに対する愛情はそんなもんかよ!」


「違う・・・俺は今でも、なつみを想っている。でも、それじゃ前に進めない。なつみが死んで、俺は何もできなかった。でも、今は違う。今ならできることがある」


「それがなつきと付き合うことか?」と、まことは、言った。


「・・・俺にはなつきが必要なんだ」


まことは、涙を拭い、掴んでいた俺の髪を離した。


足音が聞こえ、看護師が来たようだった。ドアをノックする音がした。


「都合のいい奴だな、お前って」と、まことは呟いた。


まことはドアに向かい歩き出した。急に足を止め、こう言った。


「言い忘れたけど、俺もなつきのこと好きだから。お前には渡さない」


俺は、薄れ行く意識の中で、その声を聞いていた。
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