君のためにできること
ケーキを食べながら、なつきは何か考えているようだった。


「どうしたの」と、俺は訊いた。なつきはケーキを食べる手を休めた。


「なんか最近、胸が苦しくて、寝付けないんだ」


「医者には言ったの?」


「言ってない。たまにあるだけだから、気にしてなかったんだけどね」


「ちゃんと、話さないとだめじゃん」と、まことはケーキをかぶりつきながら言った。


「それでね、なんかお母さんとお父さんの様子がおかしいの。なんかよそよそしくなってさ。急に、優しくなったりとかもして変な感じがする」


「ふうん」と、まことは興味なさそうに言った。


「医者からは何か言われてないの?」


「優達が来る前に、先生と話しただけだよ」


「で、何話したの?」


「ちょっと、入院が長引くって。また明日、先生と話すんだ、気が重いな」


なつきはうつむいた。俺は不思議に思った。ただの検査入院なのに、そんなに退院するまで時間がかかるはずがない。


気にかかったが、俺とまことはケーキを食べ終え、なつきに挨拶して帰る準備に取りかかった。


帰る間際、なつきは寂しそうに呟いた。


「ねえ、もしも。もしもだよ。私が、この世界から消えても忘れないでいてくれるかな?」


俺と、まことは、少し顔を見合わせた。


「何のジョークだよ、縁起でもない」と、俺は笑った。


なつきは、顔を歪め笑った。


「そうだよね、何言ってるんだろ?私」


「じゃあな、明日、また来るよ」


俺とまことは、部屋を出た。


この時、部屋の中で、泣いているなつきのことなんて知るはずもなかったんだ。
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