最低王子と小悪魔女
教室には帰れそうにない。まだ授業の途中だし、波月が俺を強制的に連れ出したのはクラス全員の知るところだし。
第一、立ち直ったとはいえ、この情けない顔をさらすのだけは絶対に御免だ。
仕方ない。今日はこのまま、鞄なしで帰るか。
そう決めて音楽準備室を出ようとすると、ケータイが着信を告げる。
ちなみに俺のは、波月とそれ以外の人とが、音でも振動でも区別出来るように設定してある。だからついギクリと身体がこわばった。
着信は、波月からだった。
シンとした空気を震わすように、断続的に鳴るケータイは俺を急かす。
一瞬、気付かない振りをしてしまおうかとも思ったけど、ふいによぎる波月の後姿が泣いているように思えて、俺は腹の底から息を吐き出す。
(ああ、もう、出ればいいんだろ出れば!)
やけっぱちに心中で吐き捨てながら。