最低王子と小悪魔女

「もう、せっかくがんばろうって思ってたのに。逃げ場所なんて作らないでよ」

「いつでも逃げて来てくれていいんだけどな。俺的にはむしろ大歓迎。諦めたっつっても、好きなことには変わりないし」

 両手を広げてみせる時任君は、どうやら本気みたいだ。

 そこまで人がいいってのもな。なんだか早死にしそうで心配になってくるよ。時任君。


「逃げたっていいんだよ。俺はケーベツなんてしない。ちゃんと、よくやったって褒めてやれるよ」

「でも、逃げない。あたしにだって譲れないものくらいあるもの」


 たとえボロボロになっても、解けそうに頼りなくても、この手だけは離すわけにはいかないんだ。

 あの、ゴールデンレトリーバーみたいに人懐っこく従順、明るくて温厚。 ひとりでいるのが嫌いで、楽天家のくせにやけに気配り上手。
 生まれた時から、覚えてない頃もずーっと一緒にいた幼なじみ。

 あたしはそんな矢柴慎吾が大好きなんだから。

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