最低王子と小悪魔女
「なんで……って、普通それを聞くかなあ? まあ、そーいうとこ、波月らしいよ。すごく」
慎吾は手近な塀にひょいと登って、バランスを取りながらこちらに向き直る。
その分だけ距離が近くなって、思った以上にその眼差しが真剣だったのと、顔にかかる前髪から水がしたたり落ちるのを見た。
息を呑んだ。
信じられない。
なんでこの男、こんなにどこもかしこも綺麗に出来てるんだろう。
そんな奴に、好きのさらに上をいく『大好き』って言ってもらったなんて、まるで夢の中の出来事みたいだ。
「波月も知ってるだろ? 俺は消極的で、ここぞっていう時に前に踏み出せない奴だって。
――欲しいものを欲しいって、言えない奴だって」