最低王子と小悪魔女
慎吾は手すりから軽やかに着地して、あたしの真向かいに立った。
30センチ近い身長差を埋めるように、背中を丸めて首を傾ける慎吾は、ついさっき『馬鹿波月』と言って怒っていた余韻がまるでない。むしろ、頬がゆるんで上機嫌にも見える。
「なあ、波月。波月は俺のこと、好きだったんだ?」
誰がそんなこと言ったよ? 『好きになりかけてた』って言っただけだろ?
調子に乗るなよ馬鹿慎吾。
――なんて頭では毒づいてるのに、図星を突かれたあたしは真っ赤になって口をパクパクさせるだけ。
大体顔が近いんだ。至近距離でマトモに拝めば、赤面必至のアイドル顔が目の前にあったら、そりゃ動揺もするさ。
ああ、17年の長ーい付き合いでも、多少見慣れたって耐性なんぞ出来なかったさ。