最低王子と小悪魔女

 くす、と静かに笑う慎吾。

 女の子じゃないのに、その仕草に違和感がなかったのは、それすら忘れさせてしまうほどに、その微笑みが綺麗だったから。


「――俺にしときなって言って、抱きしめたこと?」


 抱きしめてなんていないじゃない。ただ背中を包むように立っていただけ。

 けっして指一本触れようとはしなかった。望めば簡単に、そう出来たはずなのに。


 反論したいのに、それを許さない空気をまとって慎吾は続ける。面白がるような響きさえ含みながら。

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