揺れない瞳
ひまわりと彼
①
ほんの少ししか髪を切らなかったのは、勇気が出なかったから。
肩下10センチの髪は、5センチくらい短くなっただけ。
気持ち的にも外見的にもそれほどの変化はなかった。
美容室で鏡の前に座る度に『ショートにしてください』って言いたくなるけれど、それはいつも言えずにいた。『今日もそろえるくらい?』って尋ねられると条件反射で『はい、それでお願いします』と答えてしまう私。
なんて臆病者。
美容師さんに相談して、ショートにしてみたい願望は、今日も遂げることはできなかった。
毛先をすいて、ほんの少し軽やかにまとめられたボブ。
前髪を目の上にそろえたスタイルは私自身の定番。
同じ美容室で同じようにカットしてもらって5年。
何に関しても臆病で、思いの奥深いところは隠したままじれったく生きてきた。
それでも、今日は。
『ほんの少し、カラーいれてみますか?』
担当の美容師さん、庸子さんがいたずらっぽい笑い声で聞いてくれた途端、
『……っ……はいっお願いします』
自分に似合うのかどうかも考えずに即答してしまった。
生まれて20年。
まっすぐに伸びた艶のある黒髪を、ほんの少し茶色に染めてみた。
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