揺れない瞳


芽依ちゃんが小学校に入学した頃、母さんは前の旦那さんと離婚した。
憎み合うわけでもなく淡々と別れたとお酒に酔った時にぽつりと言った。
その男性とは何度も会った事がある。

芽依ちゃんのお兄さんである巧さんは、お父さんに引き取られたにも関わらず常に芽依ちゃんを気にかけ、一緒に暮らしたがっていたらしい。
高橋芽依から佐伯芽依に変わった芽依ちゃんを取り戻したくて、何度も母さんに詰め寄ったらしい。

『医者の仕事が忙しくてまともに面倒もみられないなら、自分がちゃんと育てる』

そして、兄として何度も芽依ちゃんを抱きしめていたらしい。

けれど、『RH建設』という誰もが知る大きな会社の次期社長という立場は巧さんが思う以上に制約があり忙しかった。

そして、成長していくにつれて自分の環境を理解した芽依ちゃんは、自立して強くなる事を選んだ。

時には高橋の家で何日も過ごして、実の親子としての時間を楽しんだり、お兄さんの奥さんとも買い物に行った。

一方では佐伯の家…俺や母さん、父さんと旅行に行ったり普通に家族としての時間を過ごした。

見た目には両方の家族と楽しく付き合っているようにふるまっていた。

けれど、実際は。

『高橋』にも『佐伯』にも自分の本当の居場所を見つけられないまま、寂しさに耐えながら笑っていた。
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