揺れない瞳



もしも、俺が産まれなければ。

母さんと父さんと俺。
三人でいる輪の中にいても曖昧に笑っていた芽依ちゃん。
父さんとは血が繋がっていないせいか、どこか距離を置いていた。
特に仲が悪いわけではなかったけれど、それでもどこか遠慮もあった。

家族四人、同じ『佐伯』という苗字でも、芽依ちゃんにとってはどこか不安定だったに違いない。
四人でいても疎外感を感じていたと思う。

そして、芽依ちゃんは大学に入学すると同時に家を出て一人暮らしを始めた。
大学への通学にかなり時間がかかるせいだと優しく言っていたけれど、一人暮らしを始めた途端に、高橋の家に通う時間が増えて、まだ小学生だった俺と過ごしてくれる時間は殆どなくなった。

子供ながらに妙な違和感を感じていた。

そして、芽依ちゃんとは半分しか血が繋がっていないという現実を知った。

衝撃と寂しさは計り知れないものがあって、周り全てのものから色がなくなってしまったように感じた。
焦燥感…とういう切なくて苦しい想いも知った。

けれど、芽依ちゃんに対して感じていた不思議な距離感にも納得できた。

あ-、やっぱり。
…みたいな。

そして、大学を卒業した芽依ちゃんは実のお父さんが経営する会社に入社した。

それでも、既に苗字も違う実のお父さんとは生きる世界も違って、芽依ちゃんは心から幸せそうに笑う事はなかった。

『高橋』でも『佐伯』でも居心地の悪さに悩む芽依ちゃんの切なさを感じる度に、俺は産まれてきて良かったのかと、何度も悩んだ。

悩んでもどうしようもない現実に押し潰されそうだった。


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