揺れない瞳
大学を卒業して、巧さんと同じ場所で働き始めてからの芽依ちゃんは、生き生きと仕事をこなしていた。
『なかなかゆっくりと休めない』
と笑って、実家に顔を出す事も減っていた。
俺に対する優しさは変わらないし、医学部を目指すと決めた俺を心配して
『父さんと母さんは開業医じゃないんだから、違う道を選んでもいいんだからね』
言葉を選びながらも、俺が無理していないかを気にかけてくれた。
俺が通っていた高校の正門前で待ち伏せしていた芽依ちゃん。
家だと父さん母さんに気を遣うだろうと、わざわざ来てくれた。
その心配げな顔を向けられて、離れて暮らしながら感じていた芽依ちゃんとの距離が一気に縮まったように思えた。
唯一の姉。
半分しか繋がっていない微妙な関係だけれど、わざわざ愛情を向けられた事が、そんなあやふやな距離を一気になくしていくようだった。
芽依ちゃんへの罪悪感に似た想いを、その一瞬だけは忘れる事ができた。
芽依ちゃんの心配はありがたいけれど、自分の意思で医者を目指すと決めた事。
目指す未来が、たまたま両親と同じ道に過ぎない事。
普段自分の気持ちをはっきりと表に出さない俺が、まっすぐな目と揺らぐ事のない口調で話す様子は。
『それならいいの』
ほっこりと笑って、芽依ちゃんを安心させるには十分だった。