揺れない瞳

夕飯を誘ってくれた巧さんには悪いけれど、

『用があるから』

と、芽依ちゃんと夏芽にさよならを言って家に帰った。

今までも何度も巧さんの家で食事をした事はあるし、巧さんの奥さんのまりさんはとても優しくいい人だ。俺に対しても

『巧さんの弟』

として芽依ちゃんに対するのと変わらない態度で接してくれる。
小さな頃から、誕生日やクリスマス、進学の度にお祝いをちゃんとしてくれるまりさん同様巧さんの態度にも文句なんかない。

弟としての扱いからぶれる事なく、ただかなりの年齢差がある故の距離はあるけれど。

それでも、俺にも芽依ちゃんに与える愛情に負けないくらいの愛情をくれる兄貴。

芽依ちゃんと同じく半分しか血が繋がっていない兄貴。

巧さん…芽依ちゃん…としか呼べないのは、小さな頃からの名残もあるけれど、やっぱり俺の中にある遠慮。

兄さん、姉さんと呼ぶには半端な立ち位置にいる俺には、当たり前のように兄さん、姉さんと呼べない重荷がいつもどこかにある。

多分、『佐伯』の家族といる時に芽依ちゃんが感じているに違いない不安定さ。
自分一人が疎外感を感じずにはいられない居心地の悪さを、俺は『高橋』のみんなといると感じてしまう。

だから、必要以上にわかってしまう。

芽依ちゃんの寂しさや切なさが。

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