揺れない瞳
高橋の籍から離れている芽依ちゃんにとって、巧さんの家は完全な自分の実家でもない。かといって、佐伯の家だって父さんとは血のつながりがない。
父・母・弟の三人には確固たる血縁のつながりがあるけれど自分とは曖昧な関係。
どちらにも完全な自分の居場所を見いだせずに過ごしてきた芽依ちゃんと同じ気持ちを、俺が高橋の家に行くと感じてしまう。
弟として生まれてきた俺の存在さえなければ、もっと母さんからの愛情も受けたはずだろうし、佐伯の家からあんなに早く出て一人で暮らすこともなかった。
俺が芽依ちゃんに大切にされればされるほど、そんな複雑な懺悔にも似た想いが大きくなった。
自分には責任の発端はないとわかっているけれど、芽依ちゃんに幸せになって欲しいと願っていたせいか、いつも頭のどこかにそんな思いはあった。
芽依ちゃんが結婚して幸せになった今でさえ、俺にとっては消える事のない重荷。
俺が産まれなければ、寂しい想いをしなかったに違いない人間がいるという現実からは、これからも逃げられないのだろうか。