揺れない瞳
「ねえ、あなたもこのドレス着たいって思うよね。
結婚式でこんなきれいなドレスを着られるなんて、ほんといいなあ」
「はあ…」
どう答えていいやらわからないまま曖昧に頷いていると、彼女は突然私の腕を掴んで
「いい事思いついた」
大きな声で叫んだ。
子供のように目をきらきらとさせて、私を真正面から見つめたまま。
ふふっと笑って。
「私、関係者だから投票できないんだ。代わりにこのドレスに一票入れてくれないかな?」
「…は?」
「だから、私の代わりに。…私、この会社でデザイナーしてるから、投票しちゃいけないの。去年まではなんとも思わなかったんだけど…このドレスは本当に気に入ったから、代わりに投票してよ」
ねっ?
と可愛い声でせがまれても、どうしていいのかわからない。
ぐっと掴まれた腕の強さに、彼女の本気度も理解できるし言ってることも、おかしくはないんだけど…。
関係者が投票してはいけないんだったら、私も無理じゃないのかな…。
「あの、一つ…聞きたいんですけど」
恐る恐る聞く私の声は緊張しているせいか、少し震えてる。
まさかここでこんなお願いをされるなんて思わなかったしどう聞けばいいのかも不安なんだけど。
「このドレス…作ったの私なんですけど、私は投票できるんでしょうか…?」
そっと呟くような私の声を、一瞬理解できないような顔をしたけれど、次の瞬間には目を大きく開いて
「えーっほんと?」
周りの視線が集中してしまうほどの大きな声で、彼女は驚きの声を上げた。
私をつかんで離さない手はそのままに、言葉を失って…ただ私を見つめてる。
「あ…あなたが不破結乃さん…?」