揺れない瞳
「えー、そんなに待てないよ。
このドレス気に入ってるんだけどな…」

ぼんやりと色々思っていると、拗ねたような芽実さんの声。
奏さんにぐずぐずと話しながら、小さくため息もついて。
しばらく見入っていたドレスから視線を外すと、緩い笑顔を私に向けてくれた。

「最終審査の結果がどうであれ、このドレスはショーで使わせてほしい。
ブランド云々は卒業まで待ってもいいけど、ショーにだけは使わせてほしいの。
…で、できれば、結乃ちゃんに着てもらって、ショーに出て欲しい」

…一気に希望をまくし立てた芽実さんは、傍らの奏さんに頭をこづかれながらも必死に。

「だって、絶対このドレスは結乃ちゃんにぴったりなんだもん」

…だもん。って言われても…。
あまりにもたくさんの事が一気に起きてしまって、地味にひっそりと一人ぼっちで生きてきた私には…地に足がついていない感じで…。
言葉も出ない。

「大学の許可がいるなら何度でもお願いに行くし。
ご両親が反対なら説得する。

絶対に、結乃ちゃん、似合うよ。

恋人だってメロメロになるに決まってるし」

勢いいっぱいの芽実さんは、両手を目の前で組んでお願いのポーズ。
有名デザイナーの彼女からは想像できないくらいにかわいらしい仕草に、奏さんも苦笑しながら何も言えないまま…愛しそうに見つめてる。
本当に好きなんだな…芽実さんのこと。

「それなりに身長もあるし顔も小さいし。華奢すぎる体もあのドレスには合うよきっと。アイドルみたいにくっきり可愛い顔は話題も呼ぶだろうし、お願いだからモデルになって」

< 117 / 402 >

この作品をシェア

pagetop