揺れない瞳
翌日大学に届いたのは正式なオファーだった。
私が制作したウェディングドレスが最終審査投票で一位になってもならなくても、『sweet sweet』が主催するショーで使いたいという申し出。
有名デザイナーを多数輩出している私の大学では、企業からのオファーなんて慣れているようで。
『ラッキーだね』
と明るく伝えられて、私が持つ意見なんて加味される事なかった。
ショーであのドレスが使われるってあっさりと決まってしまった。
こんな事なら、もっと気持ちを入れて貪欲に仕上げれば良かったな…。
課題提出という義務感だけで作り上げた作品は、ショーに出すほどの完成度だとも思えないし粗ばかりが目立ちそうで恥ずかしい。
できれば辞退したいオファーだけど、そんな事できる雰囲気も全くなくて。
信じられない気持ちは消える事なく。
今までの私の人生と同じように、流れるまま受け入れた。
流れるままの人生の発端となった両親の離婚。
それについて、私の意見が問われるには大きすぎる問題だったし年齢も幼かったし仕方なかったけれど。
それからの私の人生も、全て周りが決めてきたものばかり。
施設に入る事も行政の決定で、その後は私個人の意見を主張する事はわがままにもとられかねなくて、ひっそりと息をひそめるように過ごしてきた。
それでも、両親からの援助はあったようで。
高校もちゃんと卒業したし、就職もどうにか決まりそうだった。
ようやく、誰からも左右されない自分の時間が進むって思っていた矢先。
一緒に暮らそう。
そう言って父が現れた。