揺れない瞳
どきどきが、ほんの少し落ち着いた頃に電車は最寄駅に着いた。
私の肩を抱いていた手をずらして、央雅君は私の手を握って歩き出した。

人の流れの中で二人して歩くこの時間が一番好きかもしれない。
半歩くらい後ろから歩いてると、遠慮なく央雅くんを見つめられるから。
普段、恥ずかしさと照れでじっくりと央雅くんの顔を見つめるなんてなかなかできなくて、なんだか物足りなくて…そんな気持ちを補うように後姿だけど見つめてしまう。
ほんの何十秒かのこの時間だけのために一緒に帰ってるかもしれない。
極端に言うと、バイトだってこの数十秒のために行ってるのかも…。

帰宅を急ぐ波に紛れてそっと見つめる央雅くんの斜め後ろからの表情は、落ち着きのない気持ちを生むけれど、それでもやっぱり見つめながら息をつめて。
今日もいい日だったなと…繋ぐ手の温かさを実感する。

私に歩幅を合わせて歩いてくれる央雅くんの背中からは、私を大切に想う穏やかさや守ってくれようとする誠実さも感じられて、ついていくことに不安は感じられない。

いつもいつも。

ちゃんと迎えに来てくれるし私を知ろうと気持ちも時間も割いてくれているから、毎日近くなっていく距離にときめいてしまうけれど。
そのときめき。
同じときめきを…央雅くんが感じてくれているとも思えないせいか。

単純に一人で央雅くんへの想いを募らせている事を実感してしまう。

どうして、こんなに央雅くんが私を気にかけてくれているのか…それもわからないままに、毎日流されていっているようにも思える。

…斜め後ろからの央雅くんを見るだけじゃ、何もわからない。

どんな風に、私への想いを揺らしてくれているのか…瞳も見る事ができない。

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