揺れない瞳
央雅くんは、しばらく口を閉ざした後、気持ちを切り替えるように笑った。
「明日はバイト休みだよな?」
「あ…うん。次はあさってだけど…」
「じゃ、あさって迎えに行くから」
それが当たり前のようにあっさりと言う央雅くんは、繋いでいた私の手に力を入れると、そのままぐっと引き寄せた。
「あ…あの…央雅くん…」
突然の事に抵抗する間もなくて、気付けばすっぽりと央雅くんの胸に包まれている。
人通りの多い駅前で、ためらいも感じないのか抱きしめ続ける央雅くんには恥ずかしい気持ちはないように思えた。
反対に恥ずかしさいっぱいの私は身動き一つできないまま、その胸に顔を埋めるしかできなかった。
一定のリズムを刻む央雅くんの鼓動を聞きながら、私はどうにか気持ちを落ち着かせようとした。
「結乃は、俺がちゃんと見てるから。近くで」
「…え?」
頭上から囁かれる声に反応して、ゆっくりと顔を上げると、私を見つめる視線と交わる。
「ちゃんと、俺がいる」
ゆっくりとはっきりと、私に言い聞かせるように
言葉を落とす央雅くん。腕に閉じ込めたままの私に呟く。