揺れない瞳
それからしばらくの間、ぼんやりと立ち尽くす私は、ただの弱虫だ。
父親と会う事を拒否しているくせに、父親から提供された、この贅沢なマンションに住んでいる。大学の授業料も、全て父が支払っている。それどころか、授業料が幾らなのか、正確に把握すらしていない。
生活費だって、そうだ。バイトをしているといっても、生活を支える為にしているわけでもない。
私に会いたいと言ってくれる父親の申し出を頑なに拒否しながら、一方では、与えられる穏やかな生活を、あっさりと受け入れている私は、弱く、ずるいと思える。
央雅くんが私に対して向ける感情を、つらいながらも認めたのと同じように、私が父親へ向ける感情も認めなきゃいけない。
父からの思いがけないメールによって開かれた私の心。
しっかりと、受け入れなくてはいけない、と思う。
大学進学の為の援助は、受け入れているくせに、親子としての関係を修復したいという願いを拒否し、冷たい自分を演じて見せている。
それでも、私の心の奥に隠していた本心は、父からの援助を受け入れる事によってうまれる、父と私の細い細い繋がりを求めている。
たとえ微かなものでも、親子としての関わりを求めながら、口では父を拒否しながらも、自分は一人じゃないと、自分を慰めながら生きている。
たとえ経済的な援助だとしても、そんな父との些細な繋がりに、心を寄せながら生きている事。
それを、目をそらさないで、認めなきゃいけない。