揺れない瞳
すっと私の心に収まった感情は、今まで一人で生きていると思い込んでいた自分が、今まで見ようとしなかった感情だ。
そんな感情から、離れて生きていれば、今以上に寂しい思いも、つらい思いもしなくて済むと感じて、無意識にではなく意識的にそうしていた。
そんな、自分の頑なな心を揺らして、壊そうとしてくれているのは間違いなく央雅くんだ。央雅くんから大切にされて感じる甘い幸せが、私の心を弱くして、隠し続けていた父への思いを表に呼び出してくる。
強がって冷めて、何にも動じない自分なんて、本当の自分じゃない。
小さい頃は泣き虫で、一人が怖くて誰かに構ってもらわなきゃ何もできない子供だった。
そんな自分を殺して、隠しながら、強い自分を作りこんで今までを過ごしてきた。
そうしなきゃ自分はだめになるって本能的に知っていたのかもしれない。
今の私は、父さんと母さんに捨てられる前の、心から笑って、泣く事ができる可愛い女の子に戻っていた。
さらさらと流れる涙には、私が長い間隠していた寂しさが、溢れているよう。
「…はっ…早く泣けば良かった…」
私の口から、ぽつりと出た言葉が、全てだと実感する。
泣きたい気持ちを感じても、それに気付かないふりをして、大人になった私。
今、こうして、自然に泣いている自分は、どこかに忘れてきた大切なものを、ようやく取り戻し始めているんだと、気付いた。