揺れない瞳
そのまま、しばらく泣き続けると、少し気持ちは落ち着いた。
頬の涙を手の甲で拭って大きく息を吐いた。

その時、手にしたままの携帯が鳴りだして、一気に気持ちは現実へと戻った。
慌てて画面を見ると、央雅くんからの着信だった。

部屋に着いたら電話しなきゃいけないのに、すっかり忘れていた。

「もしもしっ。ごめんなさい、ちゃんと部屋に着いてるから大丈夫。
電話かけるのを忘れてしまって、ごめんね」

早口で言う私の声は、どう聞いても、涙声だ。
鼻だってぐすぐすといってるし、普段とは全く違う声で電話に出てしまった。

『……泣いてるのか?』

あ…やっぱりばれてる。この泣き声で電話に出てしまったんだから、仕方ないか。

「泣いてたんだけど、もう泣いてないから、大丈夫」

明るく言う私の言葉を、央雅くんがどこまで信じてくれるのかはわからないけれど、
とりあえず安心してもらうように言ってみた。
けれど、央雅くんの心配そうな声は、変わらないどころか更に大きくなった。

『何かあったんだろ?大丈夫なのか?』

「大丈夫だよ。平気平気」

『……何があったんだ?俺、まだ近くにいるから部屋に行く』

心配げな央雅くんの声が、温かく私に染み入るように、聞こえる。
こうして人から気遣われるのって、やっぱり嬉しい。
嬉しいって感じる事は、私がそれを望んでるんだろうな。
けれど、ただでさえ遅い時間なのに、央雅くんに頼る事は、できない。

「ありがとう。でも大丈夫だから安心して帰っていいよ。
央雅くんだって明日学校でしょ?早く帰って、ゆっくりしてね」

本当は、央雅くんに来て欲しいと思うけれど、そんなわがままは言えない。

『気になって、ゆっくりなんて、できるわけないだろ。そんな泣き声聞かされて、このまま帰れるわけ、ないだろ』

「えっと。あの……。だってもう遅いし、央雅くんには、迷惑でしょ?」

怒ってるような央雅くんの声に気圧されて、言葉もしどろもどろになってしまう。

『今すぐ行くから、開けろ』

イライラしている央雅くんの声に、私がびくっとなった瞬間、『ピンポン』という音が部屋に響いた。

え…?

まさか、と思いながら、小走りにモニターを見に行くと。

不機嫌な顔をしている央雅くんが写っていた。



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