揺れない瞳
私の部屋に入ってきた央雅くんは、まだコートも脱いでいない私の様子に驚いた。
そして、泣いた後だとすぐにわかる私の目を、じっと見て眉を寄せた。
私は、思わず顔をそらした。まだ、目も鼻も赤いに違いないと気付いて恥ずかしくなった。
「相当泣いたのか?」
「うん…かなり泣けた」
軽く言った私の言葉に、苦しそうに唇をかみしめた央雅くんは、私の背中に手を回して、ぐっと抱き寄せてくれた。
央雅くんの冷たいコートに頬を預けると、さっきまで私も感じていた、冷たい外気の香りがした。そして、少し落ち着いた私の背中を、央雅くんは、ポンポンとたたいてくれた。
私の手は床に向かって力なく落ちたままで、体全てを央雅くんに預けていた。
「泣いたのは、俺が原因か?俺は、結乃が悲しむような事をしたか?」
頭の上で、央雅くんの声が聞こえる。
どこか心もとない声音からは、普段の強気な央雅くんは感じられない。