揺れない瞳
「えっと……違うんだけど……」

どう言えばいいんだろう。
私が泣いていた、直接の原因は央雅くんではないけれど、完全に央雅くんが無関係だというわけではない。

父親からのメールがきっかけで、涙が止まらなくなったけれど、涙が流れるまでの過程には、央雅くんが関係していたのは、確かだ。

央雅くんに出会って、徐々に揺らされた切ない心が溢れて、少しずつ生成されて、蓄えられていた涙が、父親からのメールがきっかけで、一気に流れ出したんだと思う。

けれど、そんな私の感情を、正確に、央雅くんに説明できない。
短くはない時間を、私一人で抱えてきた感情を、今更央雅くんに正確に吐露するなんて無理だから。

「央雅くんが原因じゃないよ。確かに、さっきまで泣いていたけど、誰のせいでもない。ただ、私が…泣きたかったから」

「は?……よくわかんないんだけど」

央雅くんは、曖昧にしか言えない私の言葉に、納得できないようだった。



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