揺れない瞳

既に日付が変わった深い夜。夜景も少しずつ淡くなり、眠りにつくかのように、その灯りを消していく。
私は、ソファに座って、向かい側の央雅くんの肩越しに見える夜景を、ぼんやりと見ていた。

自分でさえ、はっきりと掴み切れていない自分の気持ちを、央雅くんにどう話せばいいのかわからないまま、言葉を探す。

そして、どうにか紡ぎ出した言葉も、心もとなく小さな声だった。

「えっと……。このマンションは、私の父のマンションなんだ」

「あ、うん。それは前に聞いた」

「そうだね……。うん、確かに言った……」

いつだか、央雅くんに言った気がする。
これまで、いつも緊張感を途切れさせないまま、ぼそぼそと断片的に、話してきたから、私が央雅くんに、何をいつ言ったのか、正直、よくわからない。

「それで……父は、私の大学の学費も出してくれていて…生活の全ても面倒をみてくれてるの」

私が、その事実に後ろめたさを感じているせいか、こうして言葉にすると、一層自分は父に対してひどい事をしているように、思えてくる。

「お父さんとお母さんは、離婚したんだよね」

央雅くんは、特に気を遣っている様子もなく、大した事じゃないように、さらっとそう言った。

「俺の母さんも、離婚して再婚してる。再婚した後、俺が産まれたんだけど、知ってるよな」

「うん。お母さんが、離婚した旦那さんと今でも仲がいいっていうのも、芽依さんから聞いてるよ」

「そうなんだよな。芽依ちゃんと巧さんが言うには、離婚してからの方が二人は仲がいいらしい。……まあ、離婚するくらいだから、それなりに大きな葛藤もあったと思うけど、今じゃ、それぞれの再婚相手も含めて仲がいいんだ」

央雅くんにしても、そんな家族の中にいて、葛藤がないわけじゃないと思うけれど、薄く笑って肩を竦める仕草からは、そんな想いは感じさせない。
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