揺れない瞳
「央雅くんとの繋がりなら、あるよ」

「どんな繋がり?俺と結乃の両親に、何か関係あったっけ?」

怪訝そうで、そして不安げな声は、いつもの落ち着いた央雅くんからは、聞いた事がない。

「私は、小学校に入る頃に、両親から育児を放棄をされて、施設に入ったの。
父も母も、私を育てる事を拒んだから、強制的にね。

経済的な面倒はみてくれていたらしいけど、愛情は全くもらえなかった」

言葉を区切って、大きく呼吸をした。普段は避けている昔の思い出を整理しながら紡ぎだす言葉に、自分自身が傷つけられていく。
何度振り返っても、悲しさしか感じない思い出をたぐりよせると、これまでなら、痛いくらいの苦しさしか感じなかった。
けれど、しばらくぶりのその思い出は、いつもよりも穏やかに、私の胸によみがえってきた。

「私の高校卒業前に、父が突然このマンションを用意してくれて、大学進学をすすめてくれたの。就職するつもりでいた私は、受験勉強なんてしてなかったから、一年間予備校に通って勉強をしたの。そして、今の大学に入学して、好きだった被服の勉強をしてる」

「だから、成人式……」

「そう。だから、今、央雅くんと私は同じ学年だけど、私の成人式は一年早かったの。
今は、大学に通える事を幸せだと思ってる。昔から服を作る事が大好きだったし、大学に入って、友達もできたし」

悲しくて、落ち込みそうになる自分を隠しながら話す私に、央雅くんが戸惑っているのがわかる。

「本当はね、小さな頃から、ずっと今の生活を望んでたの。
生活の心配をせずに、大好きな洋服作りに没頭できる生活を、望んでた。

無理だって、諦めていたけれどね」

心の中で整理しながら口にした言葉。
私は、今までずっと、そう思ってたんだろうと、自分自身の滑らかな口調が、それを実感させる。

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