揺れない瞳
黙って私を見つめていた央雅くんは、何から話せばいいかを悩むような表情で、小さく息を吐いた。

「今、結乃が目の前で泣いてる姿を見ると、夏基さんとの事で悩んでいた頃の芽依ちゃんを思い出す。夏芽を身ごもって、心労から倒れて、病院に運ばれた芽依ちゃんと結乃が重なる。俺は、芽依ちゃんが幸せになる事を望んでいたから、倒れてしまうくらいに悩んでいる芽依ちゃんを見るのがつらくてたまらなかった。
夏基さんの事だって憎かったよ。それでも芽依ちゃんが求める相手は夏基さんだけだったから、夏基さんを受け入れるしかなかった。
結局あの二人には、幸せ以外の感情はないんじゃないかと羨むくらいに幸せな結末を迎えたんだけどな。

それでも俺は、今も芽依ちゃんが幸せなのかどうかを気にして生きてる」

央雅くんの瞳は、瞬きもなく、まっすぐ私に向けられている。
今聞かされた言葉から、央雅くんと芽依さんとの間に、誰も割り込むことなんてできない絆が存在する事は明白だ。そして、単なる姉と弟が持つ感情が、ここまで強いものだとは思えなくて、私の心は痛い。
私と央雅くんが出会ってから、それほど長い時間を一緒に過ごしていたわけじゃないけれど、央雅くんには、芽依さんへの強い想いがあって、それを自分の中で受け止めているとわかる。

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