揺れない瞳
「俺が生まれて、両親とうまく過ごせなくなってしまった芽依ちゃんは、小さい時から自分の居場所を見つけるのに苦労していたんだ。
俺の存在が、芽依ちゃんが寂しさを抱える一番の要因だったから、申し訳ないっていう思いが消えない。
たとえ、今は芽依ちゃんが夏基さんと幸せだとわかっていても、やっぱり芽依ちゃんの幸せを確認せずにはいられない」

「芽依さん、小さな頃は幸せじゃなかったの?」

そっと、聞いてみると。

「……というより、自分の居場所が見つけられなくて切なそうにしてたな。
両親が離婚して、それぞれ再婚して、どこにも自分が落ち着ける場所はないような、不安定な毎日だったと思う。
まあ、今は夏基さんの側で、幸せに満ちてるけど」

央雅くんが見せた、予想外に甘く嬉しそうな顔は、私が想像していた顔じゃなかった。芽依さんと夏基さんの幸せを、素直に喜ぶ央雅くんを、予想していなかった。
芽依さんが夏基さんと幸せに暮らしている事に、悔しさや寂しさを見せると思っていたけれど、央雅くんからは、嬉しさしか感じられない。

「……央雅くんは、芽依さんのことを……」

「ん?好きだよ。心から大切に思ってる」

「……だよね」

「俺の存在のせいで寂しい時を過ごしてた芽依ちゃんを、嫌いになれるわけない」

私がこれまで央雅くん対して抱いていた不安とは違っていた。
芽依さんへの感情の複雑さは、予想以上に苦しいものだった。
そして私は、芽依さんへの想いを呟く央雅くんから、目が離せなかった。
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