揺れない瞳
「で、俺が一番気になってるのは、さっき結乃が泣いてた理由なんだけどな。
どうして泣いてたんだ?」

「あ……。うん……」

「俺を想って、苦しくて泣いてたとか?……違う……よな」

「えっ?そっそんな事ないし…央雅くんを思って泣いてたわけじゃない……」

にやりと笑う央雅くんに焦りながら、何をどう答えていいのかわからないでいると、この部屋に満ちていた緊張感と、どこか冷たかった空気が一掃されていく気がする。

さっき、私が央雅くんに伝えた『央雅くんが好き』だという想いの重さを、ふっと消してしまうような変化を感じる。

きっと、央雅くんが意識してそうしたんだろうな。私の張りつめた状態を緩めてくれる気遣いだとも思えるけど、切なくも感じる。私の想いに対する答えをはっきりと答えてくれないのは、央雅くんの優しさなのか、逃げなのか、わからない。

とにかく、私の伝えた気持ちは、やんわりと央雅くんかわされてしまったんだとわかる。
私の思いは、央雅くんに受け入れてもらえなかったんだ。

それでも、私が持つ央雅くんへの思いは変わらない。少なくとも私の事を、愛しいと、大切だと、言ってくれる央雅くんを好きだという気持ちは変わらないから。

央雅くんの気持ちを、苦しいながらも理解した私は、せりあがってくる悲しみを心の奥に押しやった。そして、傷ついてるなんて全くみせないように笑うと

「私が、さっき泣いていた一番の理由は、父からのメールなんだ」

カーペットの上に転がってる携帯を拾い上げた。

悲しい気持ちを体の奥に隠すのは、小さい頃から慣れているから平気。
自分にそう言い聞かせながら、央雅くんに視線を向けた。

「このメール、見て」

ちゃんと笑って。言えたと、思う。




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