揺れない瞳
その日、先生に呼ばれて最終審査の結果と総評を聞かされた。結果はあらかじめ聞いていたから大した緊張もなく、審査一位は誰の作品だったんだろうって、それだけを楽しみに行った。

「ま、不破には来年もチャンスはあるからな、気落ちせずに頑張れ」

そう言って締めくくられた言葉は、とりあえず何かが足りなくて一位になれなかった私への励まし。先生は、私への気遣いも見せながら気持ちは既に一位を取っている作品に向けられていた。

『進化する悩み』

そんな哲学的ともいうべきタイトルがついている紫色のミニドレスが今年の一般投票の一位を獲得していた。それは、自動的に最終審査で最優秀をも獲得するという事になる。

ノースリーブスのミニドレスは、たっぷりとしたフレアの裾で、同じ紫系の色が綺麗なレースがひらひらと。

光沢があるサテン生地以上に輝いている胸元のシルバーのビーズ達も眩しくて、一言で言って、かなり目立つ。

実際に着たとしたら、膝上１５㎝くらいかな。

色合いもデザイン目立つし、とにかく可愛い。華奢な女の子に似合いそうなイメージのミニドレスは、本当に印象に残る。

実際、審査の為にで展示されていた時にも、かなり強いインパクトがあったから、きっとこの作品が一位だろうと思ってた。

私のその予想は大当たりだった。そして目の前でこれからのスケジュールを話してる先生と。

『川原　忍』

このミニドレスを制作した男性。

展示されていたドレスの下に添えられていた、名前のプレートだけを見て、川原さんは女性だと思っていた。
実際は、どこか強い意思を表情に漂わせている男性だった。

先生と話す横顔は無表情で、せっかくの一位なのに大して喜んでいる様子でもなく、冷めた感じにしか見えない。


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