揺れない瞳
最終審査が終わった作品のうち、私と川原さんの二作品だけが部屋にあった。
他の三作品は私達より早く総評を聞きに来ていたらしく既に返却済みなようだ。
先生は、川原さんと話を続けていて、私との話は既に終わったというような雰囲気を出している。そんな空気に居心地の悪さも感じた私は、そっと自分の作品を手に取ると、
「お先に失礼します」
静かに言って部屋を出ようとした。
先生と川原さんは、何か真剣に話をしていて、大して気にも止めないだろうと思っていたのに。
「ちょっと待て」
強い声が私を呼びとめた。
別に悪いことをしているわけじゃないのに、なんだか私を怒るような口調にびくっと体は強張った。
「話があるから帰るな。そこで待ってろ」
不機嫌な顔と声が私に投げられる。
その声に振り向くと、あからさまに眉を寄せている川原さんが私を睨んでいた。
冷たい印象の目には苛立ちが隠されるわけでもなくて、怖い。
「あ、あの……私……えっと」
「もうしばらくそこで待ってろ」
抑えつけるような声に言葉を失った私は、ドレスを両手で抱えたまま立ち尽くしたまま呆然としていた。
初めて会ったに違いないのに、どうしてここまで優しさの全く感じられない態度をぶつけられなきゃならないんだろ……。
私、何か怒らせるような事、したかな。
そんな事ないって思いながらも、不安はどんどん大きくなるしバイトに行く時間も迫っていて焦るし。
こんな時に、臆したまま何も言えない自分が、情けない。