揺れない瞳
お店の駐車場に車が停まった時には既に、バイトに一時間以上遅刻していた。
「わざわざ送っていただいて、すみませんでした」
川原さんと紗代子さんに頭を下げて、急いで車を降りた。
抱えている荷物を確認して、
「じゃ、急いでるので失礼します。ありがとうございました」
わざわざ送ってもらったのに、あっさりし過ぎかなと思いながらも、早くバイトに行かなきゃと焦る気持ちの方が勝ってしまった。
お礼もそこそこに、目の前にあるお店の入口を目指して走り出した途端、抱えていたかばんは私の隣に追いついた川原さんに取られてしまった。
「俺も一緒に行くよ」
当たり前のように呟いた川原さんが、表情を変えることなく私よりも早くお店へと入っていった。
そのすぐ後からお店に入った私は、どうして川原さんがお店に来たのかわからなくて、驚くばかりだった。
「いらっしゃいませ……あ、結ちゃん」
ちょうどレジに立っていた加賀さんが、私を見て微笑んでくれたけど、川原さんの後から驚きの表情のまま入ってきた私を見て、すぐに眉を寄せた。
「……どうしたの?すごく真剣な顔してるけど」
「あ、私にもよくわからなくて……じゃなくて。
遅れてすみません。連絡もしなくて……本当、すみません」
何度も頭を下げて謝る私に、加賀さんは優しく笑ってくれた。
「いいのよ。連絡がなかったから何かあったのかと心配したけど」
「あ、大丈夫です。何もないんです……」
本当に心配してくれていたような加賀さんに、慌てて言う私。
無断で遅刻なんて、申し訳ないことをしてしまった。
その時、私の隣に立っていた川原さんが、突然声をかけてきた
「すみません。今日は、僕が無理矢理不破さんを引き止めていたんです。……彼女のせいじゃないんで、許してあげて下さい」
真摯な声と表情で、加賀さんに頭を下げてくれた。