揺れない瞳
「川原さん、あの……別に川原さんが謝る事ではないんですけど」

川原さんが謝る様子に驚いて、私はおろおろとしてしまった。
バイトに遅れたのは川原さんのせいじゃない。単純に、私の頭からバイトの事が抜けていただけなのに。わたしをフォローするように謝ってくれる川原さんを見ると申しわけなくなった。

「いや、俺が不破さんの都合も聞かずに無理矢理連れ出したから。
今日は、俺が悪い。本当、申し訳なかった」

それでも自分が悪いと言ってくれる川原さんは、加賀さんに視線を向けた。

「これまで、無断で遅刻をした事がない不破さんなら、これからもそんな事はないと思います。
今日は、俺が無理矢理につきあわせただけなので、許してあげてください」

「えっと……了解……しました。大丈夫、結ちゃんの事は信用してるし、結ちゃんが無事ならそれでいいの。
だから……結ちゃんを無理矢理……?振り回さないようにしてあげて欲しいわ……」

川原さんの言葉に戸惑いながらも、加賀さんは優しく、それでいて諭すように言ってくれた。
何度も自分が悪いと言う川原さんとは初対面のはずの加賀さんは、私を気遣うような視線を向けて、笑ってくれた。
私を安心させるようなその笑顔に、少し気持ちが落ち着いた私は、

「じゃ、着替えてきます。……川原さんも、気にしないでください」

川原さんからドレスを詰めている鞄を受け取りながら、私は小さく頷いた。


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