揺れない瞳

私の心の奥に隠していた、新しい扉が開かれた。

そう気付いた途端、心弾む感覚さえ生まれる嬉しさ。
自分自身が鍵をかけていた心の奥にある扉が開かれたように、今まで必要ないと思い込んでいた感情が溢れ出してくる。

人とはただすれ違うだけで、未来への繋がりも、心響きあう交じり合いからも遠い場所に自分を置いていた今までとは違う、照れくさくて跳ねるような心の粒が体にじわじわと生まれてくる。

とてもゆっくりだけど、私の体の細胞全てが新しく生まれ変わるような感覚を感じる。
ほんの少しだけ、今までの自分よりも強くなったみたいだ。

私の顔に、自然と浮かぶ笑顔に気付いて、そしてそれを楽しみながら、仕事に就いた。

そろそろ夕食が近い時間。少しずつお店も混んでくる。
普段通り、カウンターの横に立って、店内を見回した。
私よりも早く入っていたバイト仲間に軽く頭を下げると、遅れてきた私に苦笑しながらも、優しく視線を返してくれるみんなにほっとした。
私に向けられる瞳には、私がちゃんとお店に入った事への安堵にも似た色が見えた。

心配してくれたんだな……。
ごめんなさいと、視線を送った後、気持ちを切り替えて店内を見回すと。


……え……?

確かに、私の中にある新しい扉が開かれた。
それによって、温かく明るい感情が飛び出してきた。

そして、その扉をこの先ずっと開けたままでいられるのかを試すかのように、私を見つめる人と目が合った。

上品なスーツに身を包み、窓際のテーブルにゆったりと座っている、戸部先生だ。

< 206 / 402 >

この作品をシェア

pagetop