揺れない瞳
戸部先生と目が合った瞬間、私の体温が下がった気がした。
私を見つめる戸部先生の視線はいつも通りに優しくて、私が警戒するべき様子なんてまったくない。
私を大切に見守ってくれる数少ない味方だ。
それでも、何故かいつもと違う雰囲気を、戸部先生の表情から感じてしまう。
私が育った施設の顧問弁護士という立場と人間としての立場の両方から尽力してくれる信頼できる人。
そのつながりを通じて、戸部先生の息子さんの夏基さんと、夏基さんの奥さんの芽依さんと知り合う事ができた。
そして、戸部先生は私と父との間に入って、あらゆる調整をしてくれている。
特に弁護士の仕事として依頼をしているわけではないけれど、私が施設にいた頃から気にかけてくれていた流れで、私と父との複雑な関係を上手にときほぐそうとしてくれている。
弁護士という立場で父とのやりとりを潤滑に進めてくれる一方で、戸部先生自身、三人の息子さんがいて、親子の絆の大切さをわかっているから、父とうまくいっていない私の事が心配で仕方ないらしい。
そして、戸部先生が私の前に現れる時にはいつも、父からの伝言を預かってきている。
今日もまた、きっと父に何かを頼まれてきてくれたのかもしれない。
ううん、きっとそうだ。
小さく息を吐いて、戸部先生のテーブルへ行くと、普段と変わらない穏やかな声。
スーツ姿で微笑んでくれた。
「久しぶりだね。元気だった?」
「はい。元気です。戸部先生も、お元気そうですね」
「ああ、昨日も夏芽と遊んで元気を充電してきたよ」
「夏芽ちゃん、かわいいですもんね」
「だろ?俺には可愛げのない息子ばかりだったし、孫も女の子は夏芽だけだからな。
ほんとかわいいよ」
とろけそうな表情は、まさしくおじいちゃんの顔だ。