揺れない瞳

今戸部先生が見せてくれる表情で、私を大切に可愛がってくれるおじいちゃん、おばあちゃんは私にはいなかったなと、ふと感じて寂しくなった。
両親だけでなく、親戚という繋がりすら持てなかった私が抱えている孤独を実感して、心は重くなる。

戸部先生は、そんな私の気持ちに気付いたのか、そっと私に頷いた。

「結ちゃんがお母さんになった時には、俺にも赤ちゃん抱かせてくれよ。
お宮参りや七五三にも押しかけるからな」

何気ない口調で、じっと私を見つめながらの言葉は、じんわりと私の心に広がっていく。ほんの少し前に私が感じた寂しさや切なさを拭い去ってくれるような言葉。

施設で過ごしていた、小さな頃から私を気にかけてくれていた戸部先生だから、私の気持ちの機微に敏感なのかもしれない。

孤独を感じる度に、『大丈夫だよ、みんな味方だよ』と言葉をかけてくれた戸部先生にとっては、成人した今の私も、気にかかる子供のままなのかもしれない。
今私へ向けるまなざしは、昔とちっとも変わらなくて。
それがとても嬉しい。

「……私に赤ちゃんなんて、まだまだ先の事です」

思わず熱くなる瞳の奥をごまかすように、そう言った。
私が赤ちゃんを産むなんて、そんなの考えたこともないし、まず第一に恋人だっていない……。
恋人。恋人……。
その瞬間、浮かんだのは央雅君の顔だった。

私を見つめてくれて、愛しいと言ってくれて、大切にしてくれる央雅くんの顔が浮かんだ途端、とくん、と体中が脈打った。
< 208 / 402 >

この作品をシェア

pagetop