揺れない瞳
央雅くんに抱いている気持ちが、私の中で暴れ出しそうになる。
央雅くんが好きだと、側にいたいと、願う気持ちが体中を満たしていくけれど、同時に感じる切なさ。……それはきっと、私の片思いだから。
央雅くんの事を考える度に、穏やかではなくなる気持ちをそっと隠して、戸部先生に曖昧に笑って見せた。
「今日も、父からの伝言でしょうか?」
「ああ。いつもと同じ『結と会いたい』っていう伝言を預かってきたよ。お父さん、結ちゃんに会いたくてたまらないみたいだ。この前も、大学まで会いに行ったら逃げられたって落ち込んでたぞ」
「あ……はい。確かに、逃げました」
あの日、突然目の前に現れた父を思い出した。父と会う事を頑なに拒否している私が、直接父と顔を合わせる事はない。
父だって、そんな私の気持ちを知っているせいか、何の連絡もなしに会いにくるなんて今まではなかったのに。
あの日父の前から逃げた後、何かあったのかと、思わないでもなかったけれど。
そんな気持ちも心の片隅に押しやっていた。
その時、私の肩がとんとん、と叩かれた。
はっと振り向くと、心配そうな顔の加賀さんが立っていた。
「今なら大丈夫だから、ゆっくりと話していてもいいわよ」
そう言って、コーヒーを二つ、テーブルに置いてくれた。
「戸部先生でしたよね。一時間以上結ちゃんを待っていらっしゃったのよ。
ちゃんと座って、お話したら?」
「あ、でも、遅刻したうえにそんな……」
「いいのよ。忙しくなったら声をかけるから。……ね」
有無を言わせないような強い口調に戸惑いながら、加賀さんを見つめている私。
連絡もなしに遅刻したうえに、仕事をさぼってもいいのかな……。
「じゃ、ごゆっくり」
私の戸惑いなんて無視して、加賀さんはその場を離れた。
「じゃ、一緒にコーヒー飲もうか」
戸部先生はにっこりと笑って、私に向かいの席に座るように、勧めた。
私がそれを断るなんて認めないと伝えるその視線は力強くて、逆らえなかった。