揺れない瞳
いつものように駅に着いたけれど、央雅くんは、普段私達が利用する路線とは別のホームへと歩いて行った。

「……ここ、違うよ?」

涙は止まったけれど、まだくぐもったままの声でそう言う私に、央雅くんは振り返った。

「悪い。言うの忘れてたな。今日、芽依ちゃんちに呼ばれてるんだよ。結乃にクリスマスプレゼントを渡したいから連れて来いって言われてて。
……まさかお店であんな展開になるなんて思ってなかったから、言いそびれてたよ。
都合悪いか?」

苦笑しながらも、私を気遣ってくれる声はとても優しい。
繋いでいる手をそっと離して、肩を抱き寄せてくれた。
人が多いホームで、私を守ってくれるような自然な仕草にどきどきさせられた。

「加賀さんには、結乃を早く上がらせてくれって昨日から言ってたんだけど、肝心の結乃に言っておくの忘れてた。……拒否させるつもりなんてなかったしな」

央雅くんは笑って、何も言わない私をじっと見つめた。

「どうした?まだ、泣きたい?」

「……違うよ。……でも、どうして?どうして央雅くんは、私の事を、こんなに」

「どうして振り回すのかって?」

にやりと笑った央雅くん。心なしか、今までにない明るい光が瞳の奥に見えた。
まっすぐに私へと向けられた光は、ぶれる事のない単純な光。

「結乃が、大切で、愛しくて、好きでたまらないから」

「……」

「俺の事を好きだって、俺よりも先に言わせてしまって、ごめんな。
ちゃんと、結乃を安心させる言葉を言わないままで、ごめん。
でも、ちゃんと、大好きだから」

ぐっと抱きしめられた。央雅くんの胸に顔を押し付けられて、背中に回された手で優しく撫でてもらって。
私は驚いたまま、両腕は地面に向けて下ろしたまま動かせない。

「好きだよ。結乃が好きだ」

熱い気持ちを私の体に言い聞かせるような央雅くんの吐息すら信じられない。

「嘘……」

「嘘じゃない。本気だ」

私に言い聞かせるような、ゆっくりと静かに響く声は、まるで魔法だ。

大勢の人が行き交うホームの真ん中で大好きな人から抱きしめられて、私の瞳には、再び涙が溢れた。
魔法にかけられて、心に広がる温かさと嬉しさから生まれる、優しい涙が溢れた。

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