揺れない瞳
「夏芽ー、ちょっ、だめだよー、こっちにおいでー」

「「……」」

芽依さんの家に着いた途端、大きな声を出して、部屋の中を駆け回る芽依さんに驚かされた。
どちらかというと、穏やかに笑っている優しいお母さん、というイメージの芽依さんが、リビングを走っている姿なんて、予想外だ。
動き回る夏芽ちゃんを追いかけている芽依さんは、私と央雅くんに申し訳なさそうに

「ごめんなさいね。最近、ずっとこうなのよ」

『ほら、だめでしょ』と、足元にいる夏芽ちゃんを抱き上げると、私と央雅くんに苦笑いを見せた。

「最近、不安定ながらも歩けるようになったから、あちこち動き回って大変なの」

小さくため息をついた芽依さんは、言葉では『大変』と言いながらも、その表情は幸せに満ちていて、これまで以上に綺麗に見えた。
胸元に抱かれている夏芽ちゃんも、言葉にならない声をあげて、嬉しそうに芽依さんにすり寄っている。
芽依さんの顔を見て満足そうに笑う夏芽ちゃんから、とても幸せな感情が伝わってくる。

「それにしても、この部屋おもちゃだらけだな」

央雅くんの呆れた声につられて、部屋を見回すと、

「本当だね……お店ができそう……」

私も思わず呟いてしまうくらい、リビングにはおもちゃが溢れかえっていた。

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