揺れない瞳
「結乃ちゃん、央雅に押し切られたんじゃないの?この子、昔から欲しい物は絶対に手に入れるタイプだから。私やお義父さんに遠慮して断れないんじゃない?」
「えっと……」
芽依さんの言葉の意味するところがよくわからない。
予想外の言葉は、私の瞬きをも止めるくらいに衝撃的だった。
『押し切る』?『欲しい物』?
それは、央雅くんが持っている感情を指しているのかな……。
ありえないありえない。央雅くんが私に対して押し切るなんて、ありえない。
私が央雅くんを好きになって、その思いに、央雅くんはようやく応えてくれたはずなのに。央雅くんが好きでたまらない私の願望が導く幻聴なのかな……。
恐る恐る央雅くんを見上げると、そのままその瞳に射られて目が離せなくなった。
私の気持ちを更に強く掴んで離さない瞳が、そこにあった。
「俺が押し切ったかもしれないけど、それだけ、結乃が欲しいって思ったから。
……結乃を絶対手に入れるって決めたから。大切にするし、泣かせない」
きっと、芽依さんの問いに答えているに違いないのに、央雅くんは私から一瞬も瞳をそらさずに言ってくれた。
「央雅くん……そんなの私、聞いてないよ……」
「だから、ちゃんと言うよ。後で、二人きりになった時にな」
くすっと笑ったその表情が、どんどん滲んでいく。
私の気持ちを揺らす事には手加減のない央雅くんの言葉が、泣かせないって言ったばかりの約束を破っている。
それとも、うれし涙は、例外なのかな……。