揺れない瞳
そのあと、夏芽ちゃんのお世話は央雅くんが引き受けてくれて、私は芽依さんと台所に立っていた。

「わざわざ結乃ちゃんに来てもらったのに、手伝ってもらってごめんなさいね。予定だと、とっくに出来上がってるはずだったんだけどなあ……」

芽依さんは、苦笑しながら、申し訳なさそうに肩をすくめた。

バイトの後、夕飯がまだの私と央雅くんの為に、準備してくれていた食事の仕上げを
一緒にする。
根菜たっぷりの煮物をお皿によそう私の隣で、揚げたての鶏のから揚げをお皿に並べている芽依さん。
私が大好きな茶碗蒸しも、蒸し器の中で温められている。
いつも、こうして私の大好物を用意してくれている事を、ありがたいなと思う。

「夏芽が歩けるようになって、目が離せなくて、なかなか家の事に集中できないのよね。ほんの一瞬目を離した隙に、何をするかわからなくて……本当、困ってるの」

芽依さんの言葉からは、大変そうな毎日が想像できるけれど、芽依さんの表情は幸せそうで、困っているという言葉とは反対に、夏芽ちゃんの成長を喜んでいるのがよくわかる。

小さくため息をついた芽依さんは、慣れた手つきでサラダも盛り付けて、おいしそうな料理があっという間にテーブルに並べられていく。

「央雅、用意できたから、食べてね」

リビングで夏芽ちゃんに絵本を読んでいた央雅くんは、『はいはい』と軽く答えるけれど、膝の上でにこにこしている夏芽ちゃんに、崩れた笑顔を向けたまま動こうとしない。

かわいい夏芽ちゃんに、夢中なんだな。

人見知りをしない夏芽ちゃんは、誰にでも笑顔を見せるせいか、会う人みんなに可愛がられる。身内びいきじゃないけれど、綺麗な顔立ちの芽依さんに似ている夏芽ちゃんは、将来美人になるだろうと予想するのも簡単だ。

「さ、お母さんのところにおいで。夏芽が大好きな央雅くんは今からご飯だからね」

芽依さんは、央雅くんの膝から夏芽ちゃんを抱き上げると、

「私は夏基が帰ってくるのを待つから、先に食べてて。じゃなきゃ、結乃ちゃんが帰るのが遅くなっちゃうよ」

私に向かって、『ね、』と首をかしげる芽依さん。
私の事を気遣って、そう言ってくれるのはわかるけれど、私と央雅くんの二人で先に夕飯をいただいても、いいのかな……。


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