揺れない瞳
「私は両親の離婚を止める事ができなかった役立たずだと悩んでいる時に、夏基と知り合ったの。そして、知り合った途端に、私の悩みの一番は夏基との関係に変わって、それまでの私の悩みは、ゼロにはならないけど、かなり小さくなって。
そのせいか、気が緩んで、兄さんに、自分の気持ちをポロっと言っちゃった」
へへっと笑う芽依さんの横で苦笑している夏基さんは、何かを思い出しているのか、どことなく居心地悪そうにしている。
今では本当に仲が良くて、愛し合っていると、簡単にわかる芽依さんと夏基さんにも、出会った当初は色々と悩みはあったんだろうな。
機会があれば、それも聞いてみたいな……。
ふうっと息を吐いて、芽依さんは話を続けてくれる。
「私の悩みを知った兄さんは、呆れたように、
『芽依より長い時間父さんと母さんの側にいる俺の方が、離婚を阻止できなかった責任は大きいだろ』
って言ってくれたの。
おまけに、私は自意識過剰すぎるって怒られた。
兄さんだって、両親の子供である自分の存在は、両親が結婚生活を続ける理由にはならないと知って、相当ショックを受けたはず。ううん、両親との生活が私よりも長かった分、私よりも傷ついたに違いない。そんな兄さんの苦しみに、ようやく気付いた時に、私の気持ちは、少し落ち着いたの」
一気に話し終えた芽依さんは、少し照れ臭そうに笑って、お茶を口にした。
「芽依ちゃんは、母さんと、高橋のお父さんを……恨まなかった?」
央雅くんが、相変わらず緊張している声で、芽依さんに尋ねた。
私が握ったままの央雅くんの手の震えは止まっているけれど、その声は震えていて、切ない。
「恨む事はなかった。ただ、高橋の家にいても、佐伯の家にいても、居心地は悪かった。でも、それは、央雅が生まれたせいじゃないから。
そんな無意味な悩みを抱えるのはやめてちょうだい。私には迷惑なだけなの」