揺れない瞳
はっとするほどの、芽依さんの強い口調が、央雅くんに向けられた。
決してぶれない瞳を央雅くんに集中させて、芽依さんは一語一語区切るように言った。

「私が佐伯の家で居心地の悪さを感じていた事と、央雅が生まれた事は関係ない。
央雅がその事で私に遠慮していたのは知ってたけど、央雅のせいじゃないから、悩まないでいい。

私が幸せかどうかは、私自身の生き方の結果で、央雅の存在は別次元の話。
第一、私は央雅が生まれたから一人ぼっちじゃなかったし、寄り添える弟の存在は心強かったんだからね。

だから、そろそろ私への遠慮や気遣いを捨てて、思う存分幸せになっていいのよ」

「芽依ちゃん……」

「央雅が幸せで、毎日を楽しく過ごしている事が、私の幸せにつながるのよ。
ふふっ、私って、央雅の母親みたいだね。あ、本当の母親はまるで母親らしくないから、ちょうどいいかな」

芽依さんは、これまで抱えていた荷物を下ろしたように、すっきりとした笑顔を見せてくれた。

央雅くんは、芽依さんから聞かされた言葉に動揺したのか、黙ったまま。
頭の中で、何かを整理しているかのように考え込んでいた。

すると、央雅くんの手を包んでいた私の手に、芽依さんは自分の手をそっと置いた。

「いつまでも私の事を引きずって、自分の幸せは後回しにする女々しい男だけど、結乃ちゃんを好きだって、この前ちゃんと言ってたから。
結乃ちゃんが望めば、央雅は結乃ちゃんの思うがまま。愛されたいだけ、愛してくれるから。
結乃ちゃんも、央雅と一緒に幸せになってね」

央雅くんと同様に、揺れる私の心を見透かしたような芽依さんの言葉。
私は、頷く事も、応える事も、何もできないまま……今にも零れ落ちそうな涙を、ぐっと我慢するだけだった。
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