揺れない瞳
ぐっと口元を固く結んで涙をこらえている私に、穏やかに笑った芽依さんは

「あのね、まだ結乃ちゃんには言っておきたいの。

さっき、私は両親を繋ぐ『かすがい』にはなれなかったって言ったでしょ?
両親に対して、その事が申し訳なくて自分の力不足に悩んでいたけどね、それは違ったの。

愛し合っていない両親の間には、『かすがい』なんて存在しないのよ。
夫婦がお互いに愛し合っていなきゃ、子供は、両親を繋ぐ存在にはなれない。
愛し合う夫婦の子供だけが、『かすがい』になれるって、夏芽のおかげで知ったの。

結乃ちゃんも、ご両親の離婚には自分の存在が関係しているって思っているようだけど、それは違うからね。
結乃ちゃんがいてもいなくても、結局愛し合っていなければ、離婚していたはずだから。
だから、自分を責めなくていいのよ」

「でも……」

「今度、お父さんと会うのなら、引け目も遠慮も捨てて、ちゃんと甘えておいで。
小さな頃の結乃ちゃんを、施設から引き取らなかった事にも、きっと理由があるはずだから。
……大丈夫。傷つく事があっても、央雅が側にいてくれるよ」

『ね?』と頷いて、芽依さんは大きく笑った。
まるで、全てが大丈夫だとでもいうような力強いその表情は、一生懸命我慢していた、私の涙を誘った。





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