揺れない瞳
外観からは想像できないほどの明るい内装に、私は言葉を失った。

パステルカラーが目に眩しい装飾の中に、存在感を大きく訴える数々の絵。油絵の重厚な雰囲気が続くかと思えば水彩画の透明感も、負けずに並んでいる。
きっとパソコンでグラフィックしたに違いない現代風のデザイン画にも目がいく。

……圧巻。

広い店内に不規則に飾られている絵画たちに、私は目を奪われたまま動けなくなっていた。

さっさと奥のカウンターに向かう加絵ちゃんの背中を視界の端に捉えるけれど、この溢れる色合いに包囲されたままでいた。

絵って、こんなにすごいものだったんだな。

特に興味があったわけじゃなかったから、意識して絵に触れる事なんてなかったけれど、そんな今までを少しだけ後悔した。

大きさも様々で、訴えてくるテーマだって複雑に見える美術の洪水に、新しい世界を見た気がした。

「結乃?」

はっと視線を上げると、少し離れたカウンターの向こうから、心配そうに見つめてくれる央雅くんがいた。
上下とも黒の服に包まれている姿は、あらゆる色に満ちている店内では対照的で、かなり強いインパクトがある。
見れば、お店で働いている人は皆、黒い服を着ていた。

小さく息を吐いて、気持ちを落ち着かせると、私はゆっくりと央雅くんの元へと歩きだした。
お店の様子に驚いた気持ちを整えて、ほんの少しの笑顔を作って。
初めて見る央雅くんの姿に胸をときめかせながら、央雅くんの元へ。

私を優しく待ってくれる央雅くんの姿を見て、本当に好きだと、何度も心の中で唱えた。
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