揺れない瞳
カウンター席は既に埋まっていて、私と加絵ちゃんはテーブル席に案内された。
央雅くんと同じ真っ黒の上下を着ている店員の男性は、加絵ちゃんと顔見知りのようで、親しげに笑顔を向けている。

「久しぶりだな。課題で忙しかったのか?」

「まあ、そんなとこ。徹夜も多かったんだ。それに、お店の手伝いもしてたしね。……あ、この子は大学の友達の結乃。可愛いけど他の男のものだから手を出しちゃだめだよ」

わかった?と念を押すような視線を加絵ちゃんから向けられて、知り合いらしい店員さんは肩をすくめた。

「手を出すなら加絵に出すから心配するな。……で、結乃ちゃん?今日は初めての来店だよね?俺は加絵の高校時代の同級生で、沢野祥です。今後ともよろしく」

人懐こい表情は、人見知りの私の心にも滑らかに溶け込んでくる。
どちらかと言えば、まだ高校生と言っても通じそうな見た目で高い身長は、女の子からも好かれそうに思える。

メニューを加絵ちゃんに手渡すと、

「加絵はいつも通りアイスティーでいいよな。で、結乃ちゃんはお酒は飲めるのかな。俺らと同い年……だよね?」

「あ……私は浪人してるから、一歳年上です。
でも、お酒は苦手なので、私もソフトドリンクで……」

「え?俺より年上?見えないよ。加絵の方が見た目老けてるぞ」

はははっと明るく笑う祥くんの腕を、加絵ちゃんは軽く叩くと

「ほらほら、さぼらずに早く仕事に戻りなさいよ。カウンターから央雅くんが睨んでるわよ」

加絵ちゃんが顎で指す方を見ると、カウンターの向こう側から私達を見ている央雅くんと目が合った。

央雅くんは、私がお店に来た事が嬉しくないのか、厳しい目で私を睨んでいた。

……どうして?



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