揺れない瞳
加絵ちゃんがお勧めだとういうメニューが幾つか運ばれてきて、二人で食事を始めても、カウンターの向こうにいる央雅くんの存在が気になって味もよくわからない。
女の子と親密に話す様子なんて見たくなくて、視線は常にお料理に向けたまま、ひたすら加絵ちゃんとの会話に集中しようとする。
そんな私に苦笑する加絵ちゃんは、央雅くんの事には触れずにいてくれた。
央雅くんがバイトするこのお店に来たいと言っていた私。
そう央雅くんに言っても、あまりいい顔はされなかった。
バイトが終わるのが遅い時間だし、駅からお店までは結構歩くから心配だし。
何より仕事中だから相手をするのは無理だからと、いくつか理由を並べられたけれど、やっぱり央雅くんがバイトしている様子が見たいっていう気持ちは強くて。
『じゃ、加絵ちゃんと一緒に来るなら』
と言ってくれた。
けれど。
私がお願いしてついて来てくれた加絵ちゃんは、その事を後悔しているのかもしれない。
店内に足を踏み入れた私と最初に視線がかみ合った時の央雅くんの顔は、決して心から喜んでいるものではなかった。
確かに笑ってくれたし、初めてのお店に躊躇している私に気遣う様子を見せてくれたけれど。
私と会えた事に、心底喜んでいる感じはしなかった。
ここしばらく、私に向けられる愛情や優しい言葉に慣れていたせいか、央雅くんが浮かべた複雑な表情は、一気に私を悲しい気持ちにさせた。
私がお店に来ることが、嫌だったのかな。
央雅くんがバイトの時には、私をバイト先まで迎えに来ることは無理だから、私はバイトを休んで、家で央雅くんを待っている事が多い。
今日も本当なら、バイトが終わったら、私の部屋に央雅くんが来る事になっていた。
その方が良かったのかな。
お店に私が来ること嫌だったのかな。
央雅くんから、これまで見慣れていない表情を向けられて、私の気持ちはどんどん落ち込んでいった。