揺れない瞳
あ……やっぱり、見なきゃよかった。
ぐっとこみ上げる胸の痛みは、これまで私が感じた事のないもので、どうすればこの痛みを逃す事ができるのかわからない。
視線の先の央雅くんは、カウンターの端で飲み物を作っていた。
カウンターに座っている女の人に声をかけられて、時々頷いたり答えたりしてるけれど、合間に私を見ている。
今央雅くんが浮かべている笑顔は、いつも私が落ち着く笑顔ではないし、瞳の奥には冷たい光も浮かんでいて、思わず目を伏せた。
そんなに、私がここに来た事が気に入らないのかな。
そりゃ、仕事中だから気軽に話せるとは思ってなかったけれど、少なくとも喜んでくれると思ってたのに。
……来なきゃ良かったな。
後悔ばかりに包まれて、目の奥が熱くなってくる。
ぐっとこらえて、涙が落ちるのを我慢してると、私の気持ちとは全く反対の明るい声で
「ふーん、そうか。結乃ちゃんて、すごい大切にされてるんだねー」
祥くんが私の顔をのぞきこんできた。
まるでからかうような表情が、私の目の前にあって、思わず息がとまった。
「こんな事したら、どうなんだろう」
祥くんは悪戯を企む男の子の顔で、私の耳元にささやいた。
「央雅って女の子に人気あるけど、女の子相手の笑顔の裏側は真っ黒だから。特に心配しなくていいよ」