揺れない瞳
祥くんの顔が私の頬に触れるほどに近くて、私の胸はどきどきしてる。
ただでさえ初めて会ったばかりで緊張してるのに、こんなに近くで話す祥くんを意識せずにはいられない。

「あ、あの……」

そっと体をずらして祥くんと距離をとろうとすると、祥君はにんまりと笑って

「もう一押し」

私の肩に手を回して抱き寄せた。

「ちょ……ちょっと祥くん……あの、離してください……」

焦りながら祥くんの腕を放そうともがいてる私に構う事なく、肩を抱いたままだ。

「ねえ、加絵ちゃん、どうにかして……」

加絵ちゃんに助けを求めても、加絵ちゃんは苦笑して、祥くんを止めることなく静観したまま。
事の成り行きを見守ってるだけ。

「祥くん……お願い、離してください」

祥くんは、ちらっと私の背後に視線を投げたあと、涙声の私の耳元に、

「ほらほら、来た来た」

くくっと笑いながら囁いた。

「え?」

祥くんの言葉の意味がわからないながらも、その腕から逃れようともがいていると、祥くんに抱き寄せられている側とは反対の腕をぐいっと掴まれた。

そしてそのまま椅子から引き上げられて、すとんと何かに包まれた。
一瞬の出来事に何が起こったのかわからないままでいると、頭上から

「祥、ふざけるなよ」

央雅くんの低い声が響いた。その声にはっと驚いて見上げると、声の調子と同じように、怒っているとすぐにわかる央雅くんがいた。

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