揺れない瞳
「別にふざけてないんだけど。結乃ちゃん可愛いくて俺の好みにどストライクだから仲良くしたいだけ。……で?央雅は何で怒ってるんだ?」
落ち着いた声の祥くんの隣で、座ったままの加絵ちゃんは肩を震わせている。
……え?笑ってる?
俯きがちな加絵ちゃんの表情ははっきりと見えないけれど、時折見える口元はきゅっと結ばれてはいるものの、笑っているとわかる。
「央雅は今日、カウンター担当だろ?ほら、お前目当てのあの女の子が今日も来てるんだから、早く戻れよ。……こっち睨んでるぞ」
「……うるさい。今は担当なんてどうでもいいんだ。とにかく……」
「あー。うるさい。で、結乃ちゃんは央雅の何?仲良くするのは俺達の自由だろ?
結乃ちゃんが店に入ってきた時から狙ってたんだから、邪魔するな」
え……?嘘。
私を気に入ってるって、そんな様子ちっとも気付かなかったんだけど。
それに、気に入られたとしても困る。
「祥くん……私……」
央雅くんに抱き寄せられたまま、小さく呟くと、その途端に央雅くんの腕の力が強くなった。
見上げると、まっすぐに祥くんを睨んでる央雅くんの顔が見えた。
いつもの央雅くんとは違う、緊張感に満ちたその顔があまりにも整いすぎていて、こんな場合なのに心はときめいてしまう。
そんな自分の心をどうにか落ち着かせながら、祥くんへと視線を戻した。
「私は……央雅くんの……」
『恋人』というのは恥ずかしいし、まだ完全な自信もないから、『知り合い』と言おうとした私の言葉を遮るように
「恋人。結乃は俺の恋人だから、手を出すな」
央雅くんの力強い言葉が響いた。